赤褐色葉腐病(褐色葉腐病)
ウェイティ菌(Waitea circinata var. agrostis = Rhizoctonia circinata var. agrostis)による病害で、春~秋のベントグリーンやブルーグラスに発生する。症状はブラウンリングパッチと酷似し、10~100cmの赤褐色~淡褐色のパッチである。
イエロータフト(Yellow tuft、黄化萎縮病、ダウニーミルデュー = Downymildew)
病原菌はスクレロフトラ菌(Sclerophthoramacrospora)である。発病は冷涼(20℃ 前後)な春と秋の時期であり、夏期には症状がマスクされ分からなくなる。感染には数時間の水たまり(水ミチ)が必須の水媒伝染であり、地際部にある葉や根 冠の分裂組織に最初に侵入する。病斑はイエロースポットやファイトプラズマのスポットよりも比較的小さく1~2cmのサイズが普通である。茎葉部をよく観 察すると上位葉(新葉)ほど黄化し、葉はやや広く厚くなり、ネジレもみられる。株としてはわい化(萎縮)および叢生(異常分けつ)がみられ、根部は貧弱と なるためたやすく抜ける。病原菌は細胞間隙に蔓延するので乾燥以外では芝はすぐには枯死しない。ケンタッキーブルーグラス、ペレニアルライグラスに感染す るとベントグラスの場合よりもやや大きいスポットとなる。コウライシバにも発生する。卵胞子の大きさは50~70μmでピシウム菌のそれよりもやや大形で ある。排水をよくすることが予防につながる。またメヒシバが最もよく感染し、発生源となるのでこの雑草の駆除も予防対策となる。土壌酸度や施肥量と発生は 関係がない。ピシウム菌に有効な浸透移行性の殺菌剤で治癒防除できる。
イエローリング
病原菌はスクレロフトラ菌(Sclerophthoramacrospora)である。発病は冷涼(20℃前後)な春と秋の時期であり、夏期には症状がマスクされ分からなくなる。感染には数時間の水たまり(水ミチ)が必須の水媒伝染であり、地際部にある葉や根冠の分裂組織に最初に侵入する。病斑はイエロースポットやファイトプラズマのスポットよりも比較的小さく1~2cmのサイズが普通である。茎葉部をよく観察すると上位葉(新葉)ほど黄化し、葉はやや広く厚くなり、ネジレもみられる。株としてはわい化(萎縮)および叢生(異常分けつ)がみられ、根部は貧弱となるためたやすく抜ける。病原菌は細胞間隙に蔓延するので乾燥以外では芝はすぐには枯死しない。ケンタッキーブルーグラス、ペレニアルライグラスに感染するとベントグラスの場合よりもやや大きいスポットとなる。コウライシバにも発生する。卵胞子の大きさは50~70μmでピシウム菌のそれよりもやや大形である。排水をよくすることが予防につながる。またメヒシバが最もよく感染し、発生源となるのでこの雑草の駆除も予防対策となる。土壌酸度や施肥量と発生は関係がない。ピシウム菌に有効な浸透移行性の殺菌剤で治癒防除できる。
ETRI病
EctoTrophic Root Infecting Fungi(外着生根部感染菌)による病気の略号である。
ETRI病は以下の7種が知られている。
ゾイシアデクライン
テイクオールパッチ
スプリングデッドスポット
サマーパッチ
デッドスポット
これらの病気を引き起こす病原菌はゴウマノマイセス、マグナポルテ、オフィオスフェレラ、フィアロフォラの 4菌が単独あるいは混合感染している。菌は分離株や寄主によっては完全世代を形成する場合としない場合があり同定には困難なことが多いが菌糸の伸長速度の 違いによって2つのグループに分けられるので同定の一手段になる。ETRI菌は若い根には外着生、古い根には中心柱内の維管束にまで侵入してこの組織を破 壊する。芝は水分、養分、炭水化物の移動が妨げられるため乾燥に弱く、生育不良となってしまう。このように地下部病害のため防除は困難で、2~4年の継続 散布が必要な場合が多い。DMI剤、QoI剤、多作用点阻害剤などが使用される。使用の際、展着剤や肥料(窒素、尿素)を混用すると良い効果が出るといわ れている。
ウイルス病(Virus)
【写真1】核酸とたんぱく質から構成され、まれに脂質膜も持った電子顕微鏡的な極めて小さい病原体である。芝に感染するウイルスは24種が報告されている。症 状としては生育抑制や葉が部分的に黄化したり、あせたようになる。わが国で報告された芝に感染するウイルス病は以下のとおりである。今のところ抗ウイルス 剤は開発されていないので問題となれば取り除くしかない。
うどんこ病(Powdery mildew)
【写真3】ライグラス(4~5月)やケンタッキーブルーグラス(9月)の葉が白い粉をふりかけたようになる。白い粉はうどんこ病菌(Blumeria graminis)の胞子の塊りである。放置しておくと感染葉は枯死していく。この病原菌は絶対寄生菌のひとつで寄主(芝)の生きた細胞にのみ感染でき、腐生生活はできない。DMI剤で防除は可能である。
カッパースポット(Copper spot、黒点葉枯病、グレオセルコスポラ葉枯症)
【写真4】グレオセルコスポラ菌(Gloeocercospora sorghi)の感染によって暖かい春と秋の多湿条件下で、肥料(窒素)を多くした管理の若いベントグラスに発生する。時には春期にも発生する。症状は 1~7cmの銅色~褐色スポットである。ダラースポットに酷似しているため区別は難しいが、カッパースポットは濃褐色になることが多い。また葉先から黄化 して枯死し、その枯死葉には褐色の微小粒子(分生子座)を形成する。ここから放出された先細りの長い胞子で伝播する。朝露の降りる早朝、スポット上に気中 菌糸があればダラースポット、なければカッパースポットと推定できる。ジカルボキシイミド剤やMBC剤、DMI剤などの散布は有効で、これらの剤はダラー スポットにも有効なので診断が困難なときに便利である。
コウライシバ黒点葉枯症
【写真5】病原菌は未同定であるが、6月頃コウライシバに直径10cm前後の葉枯れスポットを発生させる。枯死に至った葉上には小さな黒点がみられ、顕微鏡で観察すると炭疽菌よりもはるかに大きな剛毛を持った分生子座がみられる。胞子は逆に炭疽菌よりも小さく、約8μmのソーセージ形でその両端には付属糸が付いている。今のところ防除方法は不明である。
サザンブライト(Southern blight)
スクレロチウム菌(Sclerotium rolfsii)がバーミューダグラス、トールフェスク、ケンタッキーブルーグラスに感染し、5~7月ころに赤褐色のリングやパッチ状の症状となる。
しずみ症
何らかの原因によって引き起こされる、一般的な芝の生育不良症状の総称である。そのなかで原因(病原菌)が特定されたものがある。ゾイシアデクライン、ピシウム性春はげ症、フザリウム病、炭疽病、春はげ症、ネクロティックリングスポット病などはしずみ症から区別されるようになった。しかし、なおも他の原因不明によるしずみ症が存在すると思われる。
スピロプラズマ(Spiroplasma)
病原体はスピロプラズマといわれる極めて小さく、体がねじれた単細胞微生物である。媒介昆虫によりバーミューダグラスに感染する。増殖は維管束内に限られ、そのため芝は生育が抑制され、株は叢生(異常分けつ)する。
デッドスポット(Dead spot、ベントグラスデッドスポット Bentgrass dead spot)
ETRI病菌のひとつ、オフィオスフェレラ菌(Ophiosphaerella agrostis)が病原体で気孔から直接あるいは付着器を形成して芝に侵入する。ベントグラスでは罹病性に品種間の差異がある。サンドグリーン造成4年ころまでは発生が多いがその後は漸減する。インターシードしたグリーンにも発生する。春~秋まで発生がみられるが、7~8月の暑い時期に最も多く、霜が降りるころになると止まる。赤褐色の1~4cmの小さなスポット、その後は7~10cmになり縁が赤褐色で中央は黄褐色となる。ダラースポットに似ているが、露の降りる早朝でも空中菌糸はみられず、より丸いスポット状のためボールマークとも似る。茎や根が侵されるので回復に時間がかかる。高温・乾燥気味や窒素不足は発生を助長する。ETRI病に効果のある薬剤やSDHI剤が有効であり、液肥を混用すると回復も早まる。
ニグロスポラ葉枯症(ニグロスポラブライト Nigrospora blight)
【写真6】夏~秋にニグロスポラ菌(Nigrospora sphaerica)が感染する葉枯症である。単独でパッチになることは稀で、多くの場合他の病気との混合感染で検出される。コウライシバでは秋期に多く分離される。DMI、MBC、ジカルボキシイミド剤は抗菌活性が強い。
白葉病(白斑病、フィロスティクタリーフブライト Phyllosticta leaf blight)
病原菌フィロスティクタ(Phyllosticta spp.)によって暖地型芝に感染する。発生は7~9月の多湿期で5~10cmの退色斑を呈し、感染後期の葉上病斑の中央には黒色の小粒(柄子殻)が多数認められるのが特徴である。
春腐病(疑似葉腐病)
発生時期は春はげ症と同じであるが、より大きな赤褐色パッチとなることで区別できる。この病原菌は2核のリゾクトニア菌(Rhizoctonia solaniAG-DⅢ)である。高冷地のフェアウェイの日本芝に現れる。防除は春はげ症と同様に秋期散布である。
バーミューダグラスデクライン(Bermudagrass decline)
病原菌はゴウマノマイセス菌(Gaeumannomycesgraminis)とマグナポルテ菌(Magnaporthe poae)であり単独または混合感染し、しずみ症状を呈する。日本では未確認である。
ファイトプラズマ(黄萎病、イエロードヲーフ Yellow dwarf)
病原はアニロプラズマのグループに属するファイトプラズマ(Phytoplasma)である。以前はマイコプラズマあるいはMLOといわれていた。ファイトプラズマはウンカ、ヨコバイ、キジラミなどの体内でも増殖し、芝へはこれらの媒介昆虫によってのみ伝染する。発生は夏期であるが極めて稀な病気である。罹病芝(ベントグラス)の症状は5cm位の黄化スポットで株はわい化し、叢生(異常分けつ)する。細胞壁の無い細菌のようなこの小さな1μmほどの病原体は維管束(篩管部)にのみに局在する。そのため薬剤は芝体内に浸透移行する性質がなければ防除できない。バーミューダグラスに発生した場合は白葉病(white leaf disease)といわれている。
ピンクパッチ(Pink patch)
かすがい連結構造を持つ担子菌のリモノマイセス菌(Limonomyces roseipellis)が病原体である。春期ライグラスに桃色の20~50cm大のパッチが現れる。多湿条件ではパッチの葉上に淡桃色でゼラチン質の菌糸塊が形成されている。 感染は地上部のみで裸地化することはない。DMI剤やグアニジン系の薬剤が有効であるがそのまま放置しても梅雨後の高温乾燥で自然消失する。海外では他の寒地型芝にも発生があるという。トールフェスクには白色~淡黄色のパッチを形成するリモノマイセス菌もあると報告されている(クリームリーフブライト Cream leaf blight)。
ミルキーリーフ(Milky leaf、白化葉)
葉身の一部または全体が、あるいは中肋を残して均一な白色~ミルク色になる。展開葉の葉鞘は緑色のままが多い。ミルク色の部分を顕微鏡で観察すると葉緑体はみられるが葉緑素は少ない。秋~春にかけてベントグラスやスズメノカタビラ、日本芝に発生する。白化原因はピシウム菌などの糸状菌感染、微生物が出す毒素、薬害など諸説があるが、遺伝的なものではないようである。少なくとも原因の1つは細菌感染によると提案された。
ラピッドブライト(Rapid blight)
秋期の寒地型芝に、塩分の多い水を散水すると黄化~枯死パッチが発生する。病原菌はラビリンスラ菌(Labyrinthula sp.)であるがわが国では未確認である。多作用点阻害剤、QoI剤が有効といわれる。
レプトスフェルリナ葉枯症(Leptosphaerulinaleaf blight)
【写真7】病原菌はレプトスフェルリナ菌(Leptosphaerulinatrifolii)である。冷涼地の盛夏のライグラス、ケンタッキーブルーグラスやベントグラスに10cm大の黄褐色パッチとして現れる。症状はダラースポットに似る。病原菌の子のう殻が葉上に小さな粒状になって多数形成されるので葉の先端から枯れ上がるのが特徴である。この菌は腐生的増殖が多く、栄養不足の芝に発生しやすい。それゆえ、窒素肥料の施用は発病を抑制し、発生したパッチからの回復を早めることができる。DMI剤やMBC剤の散布でも防除は可能である。
未同定菌
【写真8】日本芝の枯死葉上に小さな丸い形の柄子殻があり、水を含むとその口から極めて多量の小さな胞子集団が帯状になって突出を続ける。Phoma菌やSeptoria菌などのグループに属すると考えられるが同定には至っていない。また病原性は未確認であるが何らかの原因で弱った芝葉に侵入して枯死を早めていると考えられる。現在、胞子の形から4種類が見つかっている。
参考写真
【1】日本芝に発生したシバモザイク病. a:芝は生育不良となり葉はスジ状に退色する(5月). b:葉をすりつぶして電子顕微鏡で観察されたヒモ状のシバモザイクウイルス粒子
【2】ベントグリーンに発生したイエローリング. 黄色のリング状となる(8月)
【3】ブルーグラスに発生したうどんこ病. コムギ粉をふりかけたような白色は胞子の集団である(9月)
【4】カッパースポットの発生(ベントグリーン 9月) a:症状はダラースポットに似るが色調はより褐色である b:病原菌グレオセルコスポラは一方が先細りのほそ長い胞子である
【5】コウライシバ黒点葉枯症 a:病原菌名が不明の葉枯れスポット(7月). 枯れた葉の上に黒い粒がある b:黒い粒を観察すると巨大な剛毛があり、中には小さな無数の胞子が詰まっている. ルーペでは炭疽菌の剛毛と間違えやすい c:胞子は長さが8μmと小さく、その両端に付属糸がついている
【6】ニグロスポラ葉枯病 a:暗褐色~黒色に枯れてしまったコウライシバ(ティ 6月) b:二グロスポラ菌糸の先端に丸形~楕円形の黒色胞子が形成される(6月)
【7】レプトスフェルリナ葉枯症. a:枯れたベントグラスの葉に偽子のう殻が形成され、中で子のうができる(8月). 各偽子のう殻の真ん中の白い部分(矢印)は子のうの出口 b:子のうが詰まった偽子のう殻の拡大写真. 矢印は子のうから出てきた子のう胞子で仕切りが縦にも横にも見られるのが特徴
【8】柄子殻を形成する感染菌(未同定菌). a:日本芝の枯死葉に小さな褐色斑点を形成する(コウライシバ 6月) b:水を含ませると葉に造られた柄子殻(矢印)から小さな胞子の帯状集団が突出してくる