細菌病
病原体:細菌(バクテリア)
症状としては斑点性から全体性まであり、しかも環境条件により様々な色調、症状を示す。一般的には黄色~赤褐色の輪郭の不鮮明な不定形パッチといえる。それゆえ肉眼的な診断は難しい。さらに、細菌の感染によって白化葉(ミルキーリーフ)や基部の膨れを起こすと考えられている。
菌の主な生息部位
発生芝種・発生時期
発生生態
細菌は0.5~1.5μmの極めて小さな単細胞(原核)生物である。1~数本の鞭毛で水中を泳ぐことができ、刈取りや踏み込みによって生じる傷口、 気孔や、水孔の自然開口部、あるいは病原菌や線虫が付けた傷口から侵入できる。侵入した細菌は導管内や細胞間隙で増殖する。細菌病は寒暖の差が激しく降雨 のあったときにグリーンの周囲や刈り込み方向、水ミチに沿って下に発生しやすい。症状としては斑点性から全身性まであり、しかも環境条件により様々な色 調、症状を示す。一般的には黄色~赤褐色の輪郭の不鮮明な不定形パッチといえよう。それゆえ肉眼的な診断は難しい。さらに、細菌の感染によって白化葉(ルキーリーフ)や基部の膨れを起すと考えられてきている。
顕微鏡では葉の横断切片を観察して菌泥(細菌の集団)の有無で判定できる。サンプルは草丈の長いカラー部から採取すると試料を作りやすい。しかし、 菌泥観察は葉枯細菌病の場合は可能であるが、葉の細胞間隙で増殖する他の細菌病は菌泥の判定、特に夏場には注意を要する。
一般的に細菌病は寄主特異性があ り、分離したところの同じ寄主には強い病原性があるが他の芝種への感染は弱い。これを利用してスズメノカタビラに特異的に感染する細菌(ザントモナス菌) が除草剤として開発された。ほとんどのベントグラス品種、ライグラス、ブルーグラスにも発生し、品種間の差はなさそうである。日本芝にも発生すると報告されているが病理学的な 確認が望まれる。現在のところ、以下の5種類の細菌病が報告されているが、これらの単独感染、混合感染、更には炭疽病などとの糸状菌やファイトプラズマと の混合感染も報告されている。症状のみでは細菌病の種類を断定することは難しく、厳密な同定には菌の分離から始める必要がある。将来は血清学的診断が利用 されると思われる。
葉枯細菌病
真冬を除いて年中発生するが春と秋に多く、不定形の不鮮明な黄白色のパッチとして現れる。葉脈にある導管内 でのみ増殖するので導管病ともいわれている。葉の切口などから侵入した細菌は葉脈(導管)の中に入って葉身を黄化させ、下方移動して地際の方へ進む。病原力は比較的弱いので症状は軽く、炭疽病と間違えやすい。
かさ枯病
晩秋~春の冷涼な時期に発生する葉枯れ性の病原力の強い病気であり、細胞間隙でも増殖する。温暖地では 3~5月にも発生し、細菌病の中で最も被害が激しい。感染初期では葉身上の赤褐色壊死斑の周りに黄~橙色の帯(カサ、ハーロー)が形成され、芝が濡れているときは赤~暗緑色の水浸状になっている。感染後期になるとハーローの数が多くなりまだら状に見える。下位葉での発生が多く、株が枯死するようなことは少 ない。それゆえパッチは不鮮明となる。
葉鞘腐敗病
発生期間は晩秋~早春の冷涼期で、晩秋に多い。この菌は地下に埋もれた葉鞘に感染して腐敗させる。後には地上部が影響を受けるが症状としては軽い。排水の悪いところや踏圧などの傷を受けやすいところに5~15cmの比較的小さなパッチとして発生する。冬期保温用ベントシートを長期間かぶせる場合にも発生しやすい。
褐条病
温暖期(晩春~初秋)に発生するが、西日本の夏場(梅雨明け後の高温が続いた条件)に特に多い。葉脈に沿って葉身上に黄色~褐色の条斑(スジ)あるいは暗緑色の水浸状となる。
株枯細菌病
この細菌は高温期に感染して下葉を褐変させる。激しい場合は全身枯死となる。特徴的な症状は白化葉(ミルキーリーフ)になることで目立ちやすい。殺細菌剤を処理しても白化葉は回復せず新葉との入れ替りを待つのみである。
予防対策
細菌は水分、芝の開口部(人為的傷口、気孔、水孔)および環境ストレスが合わされば感染、発病、伝搬する。また、病原菌は罹病芝や土壌中で越冬する。種子伝染の可能性がある。殺細菌剤の予防散布の他に芝の抵抗性を高めるための耕種的な予防管理(施肥、エアレーションなど)が重要である。特にエアレーションを行う直前に予防処理をしておくと傷口からの侵入を防ぐことができる。
治療対策
いまのところ発生してからの有効な治療剤はない。それゆえ、発生前の予防処置が重要で、もし発生したならそれ以上広がらないように予防剤として打つこと。一般的に少発生なら耕種的方法で、中発生なら予防剤処理で、他発生なら数回の予防剤処理または張り替えやインターシードでの対応となる。
銅剤や抗生物質、ジチオカーバメート剤などの殺細菌剤は抑制効果があるが、その効果は発生被害程度によって異なり、激しい場合は低いといわれる。また、細菌の種類(属)によって薬剤の反応が異なるので2種類の殺細菌剤を混用して散布するのも効果的となる。糸状菌との混合感染も相当みられるので殺菌剤との併用処理で回復が早まる。なお、抗生物質は耐性菌出現の危険性が高いので使用回数は少なくすべきと考えられている。
参考写真
感染芝から細菌の分離。葉の切断面から出た菌泥を希釈して培地で増殖させ、大きさや色などの異なる細菌コロニーを分離する
発病芝から分離された細菌の電子顕微鏡像。表面には模様がみられる(19,000倍)
かさ枯細菌に感染した初期のベントグラス葉はまだら状になっている(ベントグリーン 5月)
暗褐色になった感染葉をカミソリで切断すると切口から細菌の塊りである菌泥(矢印)が露出する(ベントグリーン 7月)
輪郭が不鮮明な黄色の葉枯細菌病(ベントグリーン 11月)
葉身が黄色~黄白色になっている葉枯細菌病(ベントグリーン 1月)
褐色不定形のかさ枯細菌病(ベントグリーン 8月)
褐色葉になった感染後期のかさ枯細菌病(ベントグリーン 5月)
白化葉(ミルキーリーフ)を起こす細菌病(ベントグリーン 11月)
葉身の一部が白化している細菌感染の初期症状(ベントグリーン 9月)
感染後期になると白化からやや褐色気味になり、細菌(菌泥)の確認が容易になる(ベントグリーン 11月)
細菌(菌泥)の確認ができなかった白化葉(ミルキーリーフ)。細菌以外の原因による可能性が残る