近畿大学板倉修司教授によるコラム②

みなさんこんにちは!
LINEでご案内した近畿大学 板倉修司 教授のコラム②です。
ぜひご覧ください!

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第2回コラム

近畿大学 農学部 板倉修司 教授による

シロアリの原生生物に関してのコラムの第2回目をお届けします。

 

森の分解者 シロアリの木材消化メカニズム

 

世界には約3000種のシロアリがいます。その約70%が高等シロアリで,残りの約30%が下等シロアリです。高等シロアリの消化管には原生生物が見られませんが,下等シロアリの消化管には,多様な原生生物が生息しています。下等シロアリであるイエシロアリの後腸には大型の原生生物1Pseudotrichonympha grassii,中型の原生生物2Holomastigotoides hartmaniiHolomastgotoides minor,小型の原生生物2Cononympha leiydiCononympha koidzumiiが共生しています(写真1)。大型の原生生物P. grassiiはセロビオヒドロラーゼ(cellobiohydrolase: CBH)(GH7),エンド-β-1,4-グルカナーゼ(endo-β-1,4-glucanase: EG)(GH5745),キシラナーゼ(GH10)とマンナナーゼ(GH26)を,中型の原生生物Holomastigotoides spp.EGGH79),β-グルコシダーゼ(GH1)とキシラナーゼ(GH11)を,小型の原生生物Cononympha spp.EGGH45),β-グルコシダーゼ(GH330)とマンノシダーゼ(GH92)を,それぞれ生成することが分かっています。また,これらの原生生物の宿主であるイエシロアリは,唾液腺と中腸でEGGH9)を,唾液腺でβ-グルコシダーゼ(GH1)を生成しています(写真2)。

 

写真1 イエシロアリの共生原生生物(P;大型の原生生物Pseudotrichonympha grassii,H;中型の原生生物Holomastgotoides spp.,小型の原生生物;Cononympha spp.)

CBH,EG,キシラナーゼ,マンナナーゼ,β-グルコシダーゼなどの糖質加水分解酵素は,Carbohydrate-Active enZYmes: CAZY Database (http://www.cazy.org/)上で,グリコシド結合に作用するタンパク質の活性部位の構造的類似性に基づいて,188のGlycoside Hydrolase: GH Familyに分類されています(2024年2月16日アクセス)。先ほど述べた原生生物とシロアリの糖質加水分解酵素名の後ろのGH7,9などの記号は,それぞれの酵素が属するGH Familyを示しています。

セルロ-スを加水分解するセルラーゼには,セルロースの結晶性が高い領域に作用するCBHと結晶構造が乱れた非晶領域に作用するEG2種類が知られています。イエシロアリ,ヤマトシロアリ,タカサゴシロアリなどシロアリが生成するセルラーゼは全てGH9に分類されるEGです。一方,原生生物はGH7CBHGH457945に分類されるEGがあり,多様なセルラーゼを生成しています。また,原生生物には,GH1011のキシラナーゼ,GH26のマンナナーゼ,GH92のマンノシダーゼがあり,木材の主要構成多糖であるヘミセルロースの加水分解にも関与しています。

写真2 イエシロアリの消化管

前置きが長くなりましたが,シロアリによる木材消化メカニズムを簡単にまとめてみます。シロアリ職蟻の大顎でかじり取られ木材片は,前腸にある嗉嚢に一時的に蓄えられた後,前胃(砂嚢)でさらに微細化されます。この物理的な作用で木材は数10µmの大きさまで微粉砕化され,木材細胞壁の二次壁が表面に露出します。いわゆるリグニン障壁が取り除かれるので,セルラーゼなどの糖質加水分解酵素が直接作用できるようになります。この過程で,唾液腺から分泌されたシロアリのEGβ-グルコシダーゼの作用を受け,非晶領域のセルロースがグルコースまで低分子化されます。この様に部分的に消化された木粉は,唾液腺EGβ-グルコシダーゼとともに中腸に運ばれ,中腸で分泌されるEGも加わり,セルロースがさらに加水分解されグルコースが生成します。グルコースは栄養分の吸収器官である中腸でシロアリに取り込まれます。未消化の木粉は後腸へ輸送され共生原生生物の細胞内に取り込まれ,CBHEGβ-グルコシダーゼの作用で低分子化され,酢酸や水素と二酸化炭素へ発酵されます。酢酸は後腸内に放出され,後腸壁を通してシロアリ体内に吸収され,シロアリの主要なエネルギー源となります。

ちなみに,シロアリ兵蟻は攻撃に特化した頭部形状をもち,大顎が邪魔になるため木材をかじることができません。

このため,職蟻から口移しあるいは糞食により餌をもらっていると考えられています。