ものつくり大学 技能工芸学部 建設学科 小野 泰教授によるコラム①

「木造建築物の耐震性や耐久性に関連したコラム」を今回を含め4回に分けてお届けします。

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 みなさんこんにちは、ものつくり大学建設学科で教鞭を執っている小野 泰といいます。

年2回、木造住宅等の構造や耐久性に関するコラムを投稿します。よろしくお願いします。さて今回は、4半世紀を超えても毎年開催されている木造のイベントを紹介します。それが当コラムのタイトルです。綱引きは幼児から大人まで多くの人々が経験し、世代を超えて興奮と感動をもたらします。分かり易いルール、誰もが参加できること、競技参加者も応援する人々もワンチームなれることが人気の要因でしょう。この綱引きの面白さを取り入れた木造のイベントが「壁-1グランプリ1」ですが、対戦するのは人間ではなく「木造壁」です。

2023年大会は10月に開催され、12体の木造壁がトーナメント形式で対戦しました。参加チームは木造を勉強する学生、民間企業の設計者や現場監督、大工棟梁、木材問屋、金物メーカー、研究機関などで、誰でも参加できます。鉄骨のフレームに並べた2体の木造壁を油圧ジャッキで引き合って壁の強さを競います。

1.油圧ジャッキに繋がれた2体の木造壁

「綱引き」による勝負は、壁の変形と共にバキバキ・メキメキという木材の割れる音が、その場を盛り上げ、どちらかの壁が破壊した時点で決着します。この対戦では、左壁が破壊したので右壁の勝利になります。

2.対戦後 左壁の敗戦、右壁の勝利

決勝戦では、企業チーム(左壁)が大学チーム(右壁)を破り優勝しました。このイベントの特徴として、どの対戦でも参加者は敗戦した壁に集まり、部材の変形や損傷を見て、壁がどのように壊れたか、どうすればより強い壁になったかなどの壁談義が始まります。

3.決勝戦 敗戦した右壁に集まる参加者

壁-1グランプリは、その前身である「木造耐力壁ジャパンカップ2」を引き継ぐイベントです。木造耐力壁ジャパンカップは、1995年1月に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)後、木造住宅(在来軸組工法)の耐震化への技術開発を促そうという目的で、1998年日本建築専門学校(静岡県富士宮市)の学園祭イベントとしてスタートしました。以来、2017年まで20年間毎年開催されましたが、運営スタッフもアラ還となったことから、大会の運営を次世代の若い木造建築研究者達に委ね、2018年から「壁-1グランプリ」として継承されたのです。

この2つのイベントは、学生や民間の木造技術者が、実大の木造壁の設計・施工・構造実験が行える体験学習の場でもあります。大会において、壁の施工時間、部材点数・加工数、部材の環境負荷費、解体時間、デザインは評価のポイントとなり、出場チームは、ただ強い壁でなく総合的に評価の高い壁を作り上げる技術・技能が身に付きます。そういった20年に亘る教育的効果が日本建築学会に認められ、木造耐力壁ジャパンカップは、2019年日本建築学会教育賞(教育貢献)を授与しました。た。壁-1グランプリもその教育理念を引き継いでいます。興味を持った方は来年参加しませんか。総合優勝、トーナメント優勝、各部門賞を狙ってみてはいかがでしょうか。募集要項は5月から6月にかけてwebサイト1に公開されます。

4.入賞トロフィー(小野研究室2019~21)

http://kabe-one.main.jp/

http://be-do-see.com/tairyokuhekiJC/press/ 

1981年 関東学院大学工学部建築学科卒業/1983年 関東学院大学大学院工学系研究科建築学専攻修了(工学修士)/1983年(公財)日本住宅・木材技術センター試験研究所/2003年ものつくり大学技能工芸学部建設学科/(公社)日本しろあり対策協会理事/(一社)関東しろあり対策協会理事/NPO法人木の建築フォラム理事