近畿大学板倉修司教授によるコラム①
みなさんこんにちは!
LINEでご案内した近畿大学 板倉修司 教授のコラム①です。
ぜひご覧ください!
第1回コラム
近畿大学 農学部 板倉修司 教授による
シロアリの原生生物に関してのコラムを3回に分けてお届けします。
(板倉修司教授による第2回コラムと第3回コラムは、2024年度にお知らせ予定です)
イエシロアリの原生生物
3種でなく5種だった!約1世紀ぶりに発見
下等シロアリの消化管には,多様な原生生物が生息しています。国内に生息するシロアリでは,ヤマトシロアリに12種,イエシロアリに3種の原生生物が記録されてきました1。最近の研究により,イエシロアリの共生原生生物は3種ではなく5種いることが報告されました。約1世紀にわたり,Pseudotrichonympha grassii Koidzumi(大型の原生生物),Holomastgotoides hartmanii Koidzumi(中型の原生生物)とSpirotrichonympha leidyi Koidzumi(小型の原生生物)の3種であると信じられてきましたが,中型の原生生物はHolomastigotoides hartmaniiとHolomastgotoides minor Nishimuraの2種2,小型の原生生物はCononympha leiydi KoidzumiとCononympha koidzumii Jasso-Selles & Gile3の2種であることが明らかになりました。これら中型の原生生物と小型の原生生物を光学顕微鏡による観察により識別することは難しく,Fluorescence in situ hybridization法(FISH法)と呼ばれる蛍光物質をつけたプローブ(標的遺伝子と相補的な塩基配列をもつオリゴヌクレオチド)を標的遺伝子と結合させ蛍光顕微鏡下で可視化する手法や,シングルセルRNA-seq(Single cell RNA-seq)解析と呼ばれる1細胞(原生生物)ずつで発現している遺伝子量を網羅的に解析する手法を用いて初めて識別できます。イエシロアリ後腸から取り出した原生生物の写真で記号“H”を付けた原生生物が,H. hartmaniiとH. minorのいずれかですが,正確に2種を識別することは困難です(細胞サイズが大きい方がH. hartmanii,小さい方がH. minorと言われています)。
写真 イエシロアリの共生原生生物
(P;大型の原生生物Pseudotrichonympha grassii,H;中型の原生生物Holomastgotoides spp.,小型の原生生物;Cononympha spp.)
これらの原生生物は,木材の主要成分であるセルロースとヘミセルロースの加水分解,昆虫の外骨格やキノコの菌糸と子実体の構成成分であるキチンの分解に関与する酵素を生成しています。また,大型の原生生物の細胞内に共生するバクテリアが,空気中の窒素を固定してアミノ酸に変換し,このアミノ酸を宿主である原生生物やシロアリに供給していることも知られています。次回から2回にわたって,これらの原生生物による多糖類の加水分解と窒素の利用についてご説明します。
参考文献
1. Koidzumi, M., Studies on the intestinal protozoa found in the termites of Japan. Parasitology 1921, 13 (3), 235-309.
2. Nishimura, Y.; Otagiri, M.; Yuki, M.; Shimizu, M.; Inoue, J.-i.; Moriya, S.; Ohkuma, M., Division of functional roles for termite gut protists revealed by single-cell transcriptomes. The ISME Journal 2020, 14 (10), 2449-2460.
3. Jasso-Selles, D. E.; De Martini, F.; Velenovsky IV, J. F.; Mee, E. D.; Montoya, S. J.; Hileman, J. T.; Garcia, M. D.; Su, N.-Y.; Chouvenc, T.; Gile, G. H., The complete protist symbiont communities of Coptotermes formosanus and Coptotermes gestroi: morphological and molecular characterization of five new species. J. Eukaryot. Microbiol. 2020, 67 (6), 626-641.