近畿大学板倉修司教授によるコラム③
みなさんこんにちは!
LINEでご案内した近畿大学 板倉修司 教授のコラム③です。
ぜひご覧ください!
第3回コラム
近畿大学 農学部 板倉修司 教授による
シロアリの原生生物に関してのコラムの第3回目をお届けします。。
イエシロアリは空気中の窒素からアミノ酸を合成できる
生物の体や土壌有機物に含まれる炭素と窒素の重量比をC/N比と言います。ヤマトシロアリが属するReticulitermes属のシロアリを使って,餌である木材,蟻道,シロアリの糞,土壌のC/N比が調べられました。木材のC/N比は約261:1,蟻道のC/N比は約85:1,糞のC/N比は約62:1,土壌のC/N比は約12:1であると報告されています1)。昆虫のC/N比は約10:1と言われているので,シロアリがC/N比の高い木材を食べた時に窒素が圧倒的に不足することになります。シロアリが生きていくためにはタンパク質,核酸(DNAやRNA),外骨格を構成するキチンなど窒素を含む化合物が必要となります。C/N比が約261:1の木材を食べて,C/N比が約10:1のシロアリの体を維持するためには,単純計算すると窒素を約26倍に濃縮する必要があります。このための1つの手段として,兎に角たくさん木材を食べ,炭素をメタンとして体外に排出し,わずかに含有される木材中の窒素を吸収する方法があります。シロアリが1年間に大気中に放出するメタンの量は2~22百万トンで,家畜が放出するメタン量87~94百万トンの1/40~1/4に相当すると報告されています2)。
窒素不足を補うもう一つの方法として,腸内に共生する原生生物内に共生する細菌の力を借りて,空気中の窒素を固定したり,窒素老廃物をリサイクルして,アミノ酸やビタミンを合成する機構が知られています3)。以下では,本郷先生らのグループにより報告されたこの機構を簡単にご紹介します。
写真1 イエシロアリの共生原生生物Pseudotrichonympha grassii
イエシロアリの後腸に共生する大型の原生生物Pseudotrichonympha grassii(写真1)の細胞内に,バクテロイデス門バクテロイデス目に属する細菌が生息しています。CfPt1-2と名付けられたこの細菌は,空気中の窒素を吸収してアンモニアに変換し,このアンモニアを原料としてグルタミンを合成し,さらにセリンを除く19種類のアミノ酸やパテント酸,チアミンピロリン酸,ピリドキサール-5’-リン酸などのビタミンに変換しています。この他にも,CfPt1-2細菌は宿主原生生物P. grassiiの窒素老廃物である尿素をアンモニアに分解することで窒素をリサイクルして,窒素固定と同様の経路でアミノ酸やビタミンを合成することができます。1つのP. grassii細胞内に約数万個のCfPt1-2細菌が生息し,またCfPt1-2細菌の数はイエシロアリ後腸内に存在する総細菌数の約60~70%に達します。この様にイエシロアリ後腸内に大量に存在するCfPt1-2細菌が,空中窒素を固定しアミノ酸やビタミンを合成することで,原生生物やイエシロアリは木材だけでは不足する窒素を補うことができると考えられています。
この空中窒素を固定する能力は,将来宇宙で役立つかもしれません。窒素を含む人工大気のもとでイエシロアリを飼育することで,貴重なアミノ酸やたんぱく質を生産できる可能性があります。次回は,食料としてのシロアリ利用についてご紹介します。
1) Myer, A., Forschler, B. T. (2019) Evidence for the role of subterranean termites (Reticulitermes spp.) in temperate forest soil nutrient cycling, Ecosystems, 22(3), 602-618.
2)伊藤昭彦(2017)グローバルなメタン収支,国環研ニュース,36,https://www.nies.go.jp/kanko/news/36/36-3/36-3-04.html.
3) Hongoh et al. (2008) Genome of an endosymbiont coupling N2 fixation to cellulolysis within protist cells in termite gut, Science, 322, 1108-1109.